お盆に飾られる品々には、それぞれご先祖様への深い想いや願いが込められています。
ここでは、各地域特有のお盆飾りとその意味についてご紹介します。
※一般的な内容になりますので、地域により異なる内容も含まれます。
宇都宮のお盆飾りとその意味
宇都宮では、ご先祖様を迎えるための仮設の棚である「盆棚」を設けます。この棚には、そうめんや昆布、ほおずきなどが飾られ、多くは3段の棚が使用されます 。
「ほおずき」は、提灯のような形と鮮やかな色を持ち、ご先祖様の足元を照らす灯りになると考えられています 。また、魔除けの意味で期待されているようです。
お盆飾りの中でもよく知られているのが、「精霊馬(しょうりょううま)」と「精霊牛(しょうりょううし)」です。ナスやキュウリに割り箸や爪楊枝で足をつけ、馬や牛に見立てたもので、ご先祖様の乗り物とされます 。足の速いキュウリの馬はご先祖様が早く現世へ帰ってこられるように、ゆっくり歩むナスの牛は、名残を惜しみながらあの世へ戻れるようにとの願いが込められています 。本物の野菜のほか、まこもや和紙などで代用されることもあります 。この馬と牛の対照的な意味合いは、ご先祖様を心待ちにし、そして名残惜しみながら見送るというお盆の核心的なテーマを象徴しています。
「まこも」はイネ科の植物で編んだござで、お釈迦様が病人を治療した寝床の由来とされ、盆棚の敷物や水の子を盛る器として使われます 。また、極楽浄土に咲く花とされる「蓮の葉」も、仏教と関係が深く、水の子を盛り付ける器や敷物として使われます 。
「水の子」は、ナスとキュウリをさいの目に切り、洗ったお米と合わせて蓮の葉に盛り付けたものです。「施餓鬼(せがき)」、すなわち餓鬼道に落ちた無縁仏に供物を施し供養する意味合いがあります 。
その他、さやつきの豆である「十六ササゲ」は、ご先祖様がお土産を背負う際に使う、あるいは「キササゲの木」の代わりという意味もあります 。「閼伽水(あかみず)」は清らかな水で、穢れを払う水とされ、みそはぎの束を添えて供えられます 。
「みそはぎ」は「禊萩」とも書き、「精霊花」「盆花」とも呼ばれます。開花時期がお盆ごろであることや、お盆に帰った仏様が露で喉を潤したという説から、お盆と関係が深い植物です 。
宇都宮特有の飾り付けとしては、背の高い「高竿灯籠(たかざおとうろう)」が挙げられます 。また、新盆(故人が初めて迎えるお盆)の時のみ使用される「白提灯」は、故人の霊が迷わないための目印とされます 。これは玄関や軒先、精霊棚脇に吊るされます 。盆棚の両脇には竹を立て、麻縄を張ることで「結界」を意味します 。盆棚の一番上には「十三仏の掛け軸」を飾り、ない場合は仏壇のご本尊を飾ります 。初盆の場合は、初盆の方の位牌を中央に、ご先祖の位牌を右側(上座)から囲むように飾るのが一般的です 。
これらの多種多様な飾り付けは、ご先祖様の霊が迷うことなく現世にたどり着き、快適に過ごせるよう、あらゆる手段で導き、もてなそうとする深い配慮を示しています。視覚的な目印(提灯、ほおずき)、移動手段(精霊馬)、そして栄養(水、食べ物)の提供は、ご先祖様がまるで生きているかのように、具体的なニーズを持つ存在として捉えられていることを表しています。これは、抽象的な精神性を具体的な行為と結びつけ、故人への深い共感と世話の心を行動で示す文化的な表現と言えるでしょう。
山形のお盆飾りとその意味
山形のお盆飾りは、ご先祖様への供養と、無縁仏への慈悲の心が込められています。
「精霊棚」は、葉の付いた青竹をしめ縄でくくり付け、そこに素麺や昆布、ほおずきなどをぶら下げて飾り付けます 。棚の上には位牌や「五供(ごく)」と呼ばれる基本のお供え物(香、灯明、花、浄水、飲食)を供え、故人の好物も供えることがあります 。
「ほおずき」は、ご先祖様の霊が迷わずに帰ってこられるように火や提灯の灯りに見立てられ、灯明の代わりとされます 。盆棚の青竹や飾り縄に吊るすのが一般的です 。
「真菰(まこも)」はイネ科の草で編んだござで、お釈迦様が病人を治療した寝床の由来とされ、盆棚の下に敷かれます 。
「みそはぎの花と閼伽水(あかみず)」は「精霊花」とも呼ばれ、器に入れた清らかな水にミソハギの花を浸し、「水の子」に振りかけて供えます 。これは、少ない食べ物を無限に増やすためや、ご先祖様についてきた悪霊を祓う、餓鬼が食べやすくするためなどの意味があります 。
お腹をすかせたご先祖様を供養するために、季節の野菜や果物などをたくさんお供えする「百味五果(ひゃくみごか)」という習慣もあります 。
「精霊馬」は、キュウリとナスで馬や牛を象ったもので、ご先祖様が現世に来るための乗り物を表します 。馬は早く来てほしい、牛はゆっくりあの世へ戻ってほしいという思いが込められています 。
お盆の初日には、ご先祖様にお供えする「お迎え団子」が供えられます。これは、あの世からこの世への長い道のりの疲れを癒し、落ち着いてもらうためのものです 。
新盆の場合にのみ使用される「白提灯」は、初めて帰ってくる故人の霊が迷わないための目印となります 。
山形のお盆飾りで特に注目されるのは、「餓鬼への供物」です。精霊棚の下に、供養してもらえない霊や餓鬼道に落ちた霊のための供物を置く風習があり 、これは「施餓鬼供養(せがきくよう)」と呼ばれ、ご自身の徳を積む意味合いも持ちます 。これは、自身の血縁のご先祖様だけでなく、全ての苦しむ霊魂に対する慈悲の心を表現する、仏教の普遍的な教えが色濃く反映された側面です。
また、地域によっては、赤やピンクの盆花を飾ったり、川砂を敷き詰めた「砂盛(すなもり)」に線香や盆花を刺し飾るところもあります 。精霊棚を飾る際に、そうめんや昆布をぶら下げるという行為は 、これらが単なる食料品としてだけでなく、ご先祖様の旅の糧や豊かさの象徴として供えられていることを示唆しています。これは、実用的な供物と象徴的な意味合いが融合した、お盆飾りの奥深さを表しています。
郡山のお盆飾りとその意味
郡山のお盆飾りは、ご先祖様を丁寧にお迎えし、お見送りするための様々な工夫が見られます。
故人の霊をお迎えする場所として、仏壇の前に「精霊棚」を設けるのが一般的です 。位牌を祀り、精霊馬やお供え物を丁寧に配置します。地域によっては、棚の下に供物を置いて無縁仏である餓鬼を祀る場所もあります 。
新盆の時のみ使用される「白提灯」は、故人の霊が迷わないための目印として玄関先や軒先、精霊棚脇に吊るされます 。これは、故人を純粋な心で迎えるという意味も込められています 。お盆が終わった後、この白提灯を送り火として焚き上げることがあります 。一般的な「盆提灯」もご先祖様の里帰りの目印として用意され、上から吊るす「御所提灯」や、床置きする「大内行灯」など様々な種類があります 。絵柄がくるくる回転して走馬灯を表現するものや、家紋をオーダーできるものもあります 。これらの提灯が持つ「光」は、ご先祖様を導く機能的な役割だけでなく、家族の純粋な心や、ご先祖様とのつながりの継続を象徴する意味合いも持ち合わせています。
「精霊馬・精霊牛」は、キュウリとナスに割り箸などで足を付けて馬や牛を象ったものです 。馬は故人が早くあの世から来てくれるように、牛は故人がゆっくりあの世に戻れるようにとの願いが込められています 。
「真菰(まこも)」はイネ科の草で編んだござで、お釈迦様が病人を治療した寝床の由来とされ、盆棚の下に敷かれます 。盆棚の横に用意される「笹竹」は、「結界」を張る意味があるとされています 。
「ほおずき」は、霊に場所を示す、盆提灯に似ているという説が一般的です 。「盆花」には、キキョウやハギなどが用いられ、みそはぎも飾られます。故人が好きだった花をお供えすることも多いです 。
刻んだナスやキュウリと洗った米をハスの葉などに盛りつけた「水の子」は、無縁仏である餓鬼に施しを行う「施餓鬼」の意味合いがあります 。郡山では地域によって供える日で種類が変わる団子があります 。
供物としては「五供(ごく)」を基本とし、個包装で常温保存可能な菓子(ゼリー、水ようかん、焼き菓子など)や飲み物(お茶、コーヒー、ジュースなど)が推奨されます 。